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更新日:2020年11月25日

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戦争体験抄 (橋賀台・男性・70歳)

 昭和14年3月10日、22才で旧満州公主嶺戦車第4聯隊に徴兵されて以来、満州、中国、俤印、馬来、スマトラと各地を転戦、終戦後シンガポールからリバティ船で病人300人を連れて名古屋港に着いたのは、21年5月7日、29才であった。
 その間、私の痛切に蘇る想い出の中から多くを割愛し摘記すれば、生命の流露とも言うべき、人間の清純さであろうか。

 昭和17年後半から終戦まで第25昭南(シンガポール)連絡所長として、南方総軍司令部との連絡とスマトラ開発物資の補給が主たる任務であった。すでに戦局は我に利あらず、内地からの補給は期待出来ず、現地の人達、特に懇親を得た華僑の友人たちの支援なくして我々の任務遂行は不可能であった。
 特に現地の食糧不足に対処し、現地の人達に活力の湧出を図る為、毎夕私服に変装して華僑クラブを訪ね、情報蒐集、支援助勢に微力を尽した。馬来が錫とゴムの生産に主力を置いていたのに比し、スマトラには比較的豊富な農作物と水産物があったので、当初は、スマトラの余剰食糧と現地の人が集荷して呉れるスマトラ開発資材との売買によって曲がりなりにも順調に計画は進んだ。が、戦況の悪化に伴い、マラッカ海峡に出撃する敵潜水艦によって、船舶輸送は逐次困難となり、私は遂に金塊を飛行機で持ち込み、買い付けに当てざるを得ぬ情況に立ち到ったが経済攪乱を理由に、大平高級参謀からの中止電報により、万策尽きたかに見えた。私は前に匿名ながら華僑有力者と共に富源公司なら協力会社の設立に参画していたので、最後の助成努力を託さざるを得なかった。

 8月10日突然華僑クラブの友人達に招かれて行ったところ、それは私との送別であった。彼等はすでに日本の敗戦を知り、私が若し、生きて内地に帰還する時の記念品として、なるべく目立たぬ物として象牙で造ったカフスボタンや箸や一輪挿し用の細長い筒形にした象にそれぞれ年月日記念文などを赤く彫り込んだものを贈られ無事帰還の慰励を受けた。
 そして8月15日の玉音放送を拝する破目となるのだが、その一日前にスマトラ横断鉄道完成の感謝電報、祝電を貰い、せめてもの私の嬉しくも悲しい昭南連絡所の終了となったのである。

 さて大変なことは、今迄買い付けた物資の代金支払いである。もはや軍票は無価値となり、一週間で退去すべき英軍の命令である。未払債務があれば、現地人の告訴で、服罪は免がれない。絶対絶命である。何とこの時、富源公司の幹部が会社で当代金を軍票で受け取り、債権者にはシンガポールで完済して呉れたのである。私は生命を助けられたことに涙も出ない感激を覚えた。

 復員後手紙の中にあった私の支払軍票の焼却証明書(板垣大将証印)の字によれば、360円換算で13億円余であった。勿論私は外務大蔵の各省を飛び廻って返済活動をしたが遂に果せず今日に到っている。
 次に私を待ちうけていたものは、クルワンに於ける戦犯収容所暮らしであった。英軍は馬来作戦に於ける戦犯拿捕を狙ったが、当時軍はすでにオランダ領のスマトラに移駐し手が出ず、シンガポールに残っていた私を収容し取り調べることにしたのであろう。ゴム林中の収容キャンプの生活は、食糧支給もなく、野草や近くの小川などで獲った鯰など僅かなもので飢えをしのぐ一方、彼等調査官の質問に答えて、一人たりとも私の口からは戦犯者を出さぬ為、回答を考えることに日夜を分かたず悩み続けた。ある航空参謀はゴム林中で割腹し、その介錯をした若い中尉が服毒自殺をして寄りそっていた痛ましい姿は、今でも脳裏に焼き付いている。

 私は苦しい8ヵ月間をよく過ごせたものだと今になっても解らない空白の想いしかないのが不思議にさえ思っている。

 復員後直ぐ前記大平氏の依頼で、ともに援産事業としての全国輸入古繊維再製組合連合会の運営に協力していたが、当会の顧問中山先生の紹介で、海老塚先生の梧竹堂で、24年5月以来書聖中林先生の真蹟に接し又梧竹堂書話を勉強しつつ、虚実の虚である機外の機、形外の形の大切さを教えられ、現今の様な経済至上の風潮から離れて、精神大国を目指すべきが先決である思いにかられているのは、戦友の英霊と先輩各位の御指導だと、尊敬と哀悼を捧げるものである。

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