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更新日:2020年11月24日

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産院の東京大空襲 (下方・女性・83歳)

 賛育会錦糸病院は東京錦糸町の近くにあった産婦人科病院である。私は昭和10年よりここに勤務していた助産婦でした。ベット数150床あまり。14、5年頃の「産めよ増やせよ」の時代は、常時満床で、1日10名以上は毎日のこと、30名の出産も珍しくありませんでした。

 当夜の在院数は60名位だった。夜12時前に、警戒警報が解除になり、ほっとして床について間もなく、突然の空襲警報がなった。婦長室に寝ていた私は(20年になってからは夜もモンペをはいた防空服装で寝ていました。)とび起き、手に防空ずきんと鉄カブトをもって、隣の分娩室をのぞいてみた。お産のはじまっている様子もなく静かであった。エレベーターで2階の病室へと急いだ。
 エレベーターを降りて5・6歩あるいた時、ドドドッーという大音響と同時に、目の前が、ぱっとあかるくなった。窓ガラス越しに見ると、駅の長いホーム一面に火の手があがり、院内は真昼のように明るくなった。これは大変、防空ごうではだめ、第三中学校(現在の両国高校)へ避難をと夜勤当直者に告げ、患者の誘導をはじめた。
 院内より少しはなれた寄宿舎から、非番の全員がかけつけ、各自の受けもち病室の患者の誘導をつづけた。患者はいずれも産後7日もたっていない者ばかり、「とにかく赤ちゃんをおとさないようにしっかり抱いてゆくのですよ。」と言いきかせて、私は軽い陣痛のきている妊婦さんの手をひいて中学校へ急いだ。

 中学校までは約600メートルはある。町内のあちこちに火の手があがり、燃える家のまわりを右往左往している人、お位はいらしきものを胸にだいたおばあさんにも逢った。
 中学校へ到着して、妊婦さんを分娩室係りの助産婦に渡し、病院へひきかえし全員の非難をたしかめてもどった時は、町内の人々で大講堂は満員。やむなく廊下で待機していた。すると突然「天じょうが焼けおちるぞ、皆外へ出ろ。」と消防団員のさけび声に、窓ガラスを破ってグランドへ飛び出る者、正面出口へ向かう人、校内はたちまち大混乱の場となりました。
 私は、裏口の方へまわりました。ところが出口のすぐ近くの木造建物が燃えているので、それが焼けおちなければ出られません。校舎の窓ガラスには、火の粉ならぬ大きな火の布きれのようなものがはりついてくるとビンビンとひび割れてゆく。焼けおちるのを待った時間の長かったこと。
 2階の階段を下へ吹きおろしてくる煙で息がつまりそう、手拭いで鼻と口をおさえてやっと外に出たとたんすごい風で立っては歩けません。目の前を全身火だるまとなってころころところがってゆく者を助けることも出来ません。グランド全体が大小の火の粉の渦です。空も火の粉の渦です。

 時々低空で飛来してきては焼夷弾をおとしてゆくB29が地上の炎の光で赤々と映し出された姿を今もはっきりおぼえています。炎は水平でした。地面を這って、人の気配のする一隅にたどりつきました。いきのがれ出てきた鉄筋の校舎の中は火の海でした。うずくまっている人々は誰かもわかりませんが、前の人の方や背におちてくる火の粉を、後の人が消し止めながら夜明けをまちました。顔に水しぶきのような物を感じた時、町の消防団が川の水をホースで散布していることと思いましたが、ガソリンくさいのです。後でわかったことですがB29がまいたものでした。
(後日来日したB29の指揮官の証言で、当夜の火災の熱気は1000メートルの上空でも感じられたとか)
 夜のあけた目の前は一面の焼け野原、グランドのあちこちには男女の別もわからない真っ黒こげの死体、道路わきの水槽に顔を入れたまま息たえている人、この世の光景ではありません。路面電車の軌道を江東楽天地の方まで風にふきとばされてと、かえってきた仲間が2、3名ありました。
 お互い確認しての3名不明です。火に追われ、川にのったとの情報でした。患者とその子供には幸い一人の死傷者もなく、順天堂病院のさしまわしの救護車に乗せ、そちらへ送りました。
 不明の3名は消防団員によって川から引きあげてもらいました。3名の助産婦を失ったことはかえすがえすも残念でした。
 その夕、はじめて一袋の乾パンが配給になりました。私は滝の川の親せきの家(5月の空襲で全焼)へ引きあげました。

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